2017年8月で悪性脳腫瘍の手術から10年が経過した。まだ再発はしていない。 主治医曰く、10年たって再発していないのは、腫瘍の近くに散らばっている幹細胞をすべて取り切ったから。遠いところにいる細胞はなぜだか悪さをしない。大きく物理的に切り取って、あとは何らかの症状が出てから抗がん剤とか放射線とかの治療をしようと思っていたが、結果的にその必要はなかった。あなたの場合、覚醒下手術ではなかった。もし覚醒下手術をして反応が出たら、取れるものも取り切れなかっただろう。 言葉に問題がでたのは、運動言語野と脳の中心部をつなぐ神経線維をかすっているためと思う。普通は神経線維から1mm離れたところまで腫瘍を取る。その先は神経繊維に近づくことを断念する。 現在は、そんなに広範囲に取らなくて、後でレーザーにより焼く方法がある。その場合はレーザーの増感剤を使用する。大学を退官する時にその装置を買った。日本で今のところその装置は4台しかない。しかしレーザーは数mm程度しか入っていかないが、超音波ならばもっと奥まで入っていくので、現在その方法を研究中である。 他にも、手術で広く取らなくて後で抗がん剤の徐放性シートを腫瘍を取った内側から貼っておく方法もある。しかし幹細胞は抗がん剤など毒になるものを吐き出してしまうため、この方法はあまり効果がない。 当時から神経線維の流れをMRIなどで事前に撮影しておき、術中にその画像をもとにして執刀していた。ちょっと前までは手探りで手術をしていたが、今でも手探りでやっている病院もあるとのこと。 |
腫瘍の近くに散らばっている幹細胞をすべて取り切ったから再発しなかったという話を、ここ数年来主治医から聞かされて、手術当時はまだ仮説でしかなかったそうだし、何より手術中には麻酔が効いているので、もうちょっと取ってくれとも言えず ^^; ほんと再発しなくて良かったなぁ〜と思う。 |
言葉の問題は、手術直後には簡単なボールペンとか腕時計とかいった名詞すら出てこず、自宅療養期にも、熊と猫どちらが大きいですかと質問されても迷ってしまって、う〜んと悩んでから自信なく答えていたような状況だった。それから周りの人に支えられて、また周りの人から刺激をもらって、リハビリを続けている。 リハビリの効果は出てきているとはいえ、現在でも、短い話で済む内容であっても日常会話や技術的な話をすることにも難儀する。雑談をすることには勇気が必要だし、ちょっと長い説明が必要になる場面や、あらかじめ頭で考えておく時間的余裕がない場合には、必死になって無理やり言葉を搾り出すか、納得できないまま表面だけ取り繕ってしまっている。初期のころに経験した、その時点で言いやすいだけで心にもないことを言ってしまい、人を傷つけることが今でもしょっちゅうあるし なんだか説明不足になってるなと感じることも これまたしょっちゅうある。 体感的には能力の5分の1ぐらいしか発揮できていないと感じている。しかしそうは言っても、こんなことができるようになったとか、あんなこともできるようになったなど、その時その時でいつも最高の自分がいたことも確かだ。 まぁそのうち何とかなるんじゃないの。 |
特に変わったことがない限り、今年で筆を置くこととしたい。 最後に、私のリハビリにかかわってくれたすべての人と、10年前に脳ドックを勧めてくれて その後も支え続けてくれた かみさんにお礼を言いたい。 ありがとう。 |