7.高次脳機能障害という言葉を知った
<6.よし、プレゼンテーションをやるぞ> 000 <目次> 000 <8.痙攣発作が頻発する>



2008年8月21日(木)
 PET-CTを県立中央病院に撮りに行く。そこで放射線科の担当医師が言うことには、アミノ酸代謝を見るメチオニンは昨年の結果も腫瘍に取り込まれており良好な結果だった(ん?良かぁないんですけど)。保険適用でなく、かつ試験途中という理由で無料(あ、そういや、この説明、前にも聞いたな)。
 頭に関してメチオニンとFDGのPET-CTを撮影されて帰宅。

2008年8月29日(金)
 親父が死んだ。昨年7月に時を同じくして癌が発見されたので、お前だけでも生きろといって命をささげてくれたという感じがしてならない。
 和尚さんとか、親戚の人とか、なんということのない会話は、なんとかかんとか出来る。しかし、かしこまった挨拶が全くできない。文字に書いてあるので、弔辞の音読はできる。でもアドリブでの挨拶になると「ささやき女将」(当時、牛肉の産地偽装問題で記者会見する息子の陰で母親がこっそりささやいていたのが話題になった)状態である。母がささやいてくれて事なきを得た。
 どの本かに書かれていたが、失語症の患者が自分では失語症を克服したと思っていた。しかし、あるとき失語症に関する学会で質問することになって、そこで質問しようと、いざマイクを握ると頭が真っ白になってしまって言葉が出てこない。それそれ、まさにその通りなんですよねー。

2008年9月12日(金)
 このところ会議の場などで人の話に応じて短いコメントを付けるといったことができるようになった。もっとも、ややこしいことを考えるときとか、重要な話をしようとすると冷汗びっしょりになるけれど。
 何度も繰り返し言うが、平易な会話をしているときとか全然障害がないように見えるが、これが曲者である。実際は難しいことは喋れないし、そもそも文章を書く時にすら言葉が思いつかない。
 私が行っている業務の関連で「摂食・嚥下リハビリテーション学会」に出展した。今日、明日の2日間である。思い返せば、STが昨年9月に出張していたのはこの学会である。今年の展示会場でも、このSTに会った。今回の学会展示は、まぁどんなに頑張っても難しい内容はまだ喋れないのだから、営業のお荷物極まりない。


砥部衝上断層

2008年9月24日(水)
 主治医の診察を受ける。PET-CTの結果では残っている腫瘍はない。去年の9月18日に撮影した神経の写真を見ると、取り除いた所に、わずかにかすっている部分はあるが、きちんと神経は残っている。
 Q:失語、計算など、回復するのにどうして時間がかかっているのか。
 A:高次脳機能の統合野にかかわるので、高次脳機能障害については神経科で検査を受け
   てみよう。私が段取りする。
 Q:手の震えがある。
 A:治る可能性はあるが10年とか長い時間がかかるかもしれない。
 Q:頭痛があるが気にしないようにしている
 A:手術で神経を切っているため痛みはある。

2008年9月25日(木)
 言語リハビリ。STに11月19日から11月20日にかけて開催される高次脳機能障害学会(旧失語症学会)の件を教えてもらう。これは高次脳機能障害にかかわる先生が大勢集まっているので行ってみたらよいと勧められた。
 この頃、業務で図面の検図をすることができるようになった。これは寸法の抜けはないか、に始まって、適切な材料を使っているか、もっと他の良い方法はないかなどチェックをするものである。

2008年10月22日(水)
 会社で朝、引き出しにお弁当をしまおうとして、ぎっくり腰になる。まぁ椅子に座って前かがみになって、ぎっくりになりそうなスタイルではあった。例の整形外科に行く。レントゲンでは異常なし、急性の腰痛であろうとのこと。痛み止めの注射をしてロキソニン、イサロン、リンラキサー、湿布を処方された。

2008年10月23日(木)
 言語リハビリ。STから計算などの不便への対処法が載っている本、他にもコピーを借りる。
 これは、計算と言っても重度な失計算障害を抱えている人に対するリハビリ方法であって、私のように、いわば高度な計算ができないという人向きではないように思う。よく考えないと暗算ができないから、結局、流体計算・熱計算ができない。ワーキングメモリ障害があるので、ちょっとしたことを忘れてしまうから数式が覚えられない。自分の言葉でしゃべろうとしても、結局、読んでしまう。どうすりゃいいんだ。
 術後、月日の流れがどんどん速く進んでいくような気がする。STはそれを良いことだという。なぜなら、辛いことや苦しいと思うことがないから。でも実際は、こんなに飛ぶように進んでよいのだろうか、どんどん忘れていくのが良いことなんだろうか、失語症だからこんなに月日が速く進むんじゃないかと思う。


三津の渡し

2008年10月27日(月)
 昨日から寒気がする。しばらく前から、なんとなく違和感がある。そして今朝、血尿が出る。
 かかりつけの病院にいく。エコー、CT、レントゲン、検尿、採血、細胞検査、副甲状腺ホルモンの検査を行う。で、1月に右の腎臓に残っていた石が尿管に降りてきて詰まったのだろう。痛みが軽減されたのは腰痛のために飲んでいたロキソニンの効果であろう。血尿以外の検査項目は異常なしとのことであった。ロワチンを処方された。
 実は今朝、結石で病院に行く準備をしていて、またまたぎっくり腰になった。今度は程度がひどい。少しの間、動けず座り込んでいた。

2008年10月31日(金)
 例の整形外科受診。薬が効いているので、他に原因があるような悪い腰痛ではない。ロキソニンは自分で調整して飲むこと。強度な腰痛ではないので神経ブロックは必要ない。腰痛は加齢などで起こるので予防はしにくいとのこと。(これには不服)

2008年11月1日(土)
 かかりつけの病院に行く。結石は10月30日に、たぶん出たらしいと報告。10月27日の検査で細胞検査、副甲状腺ホルモンともに異常なし。結石のできやすいタイプかもしれない。水分をよく摂り、小さい結石のうちに体外へ出してしまうことが一番とのこと。

2008年11月3日(月)
 1983年に交通事故に遭い自ら失語症を患ったことのある言語聴覚士(ST)にメールした。返ってきた答えは、
 「ご自分の失語症状を自覚できる人は悩み大と思います。私も悩み苦しんだ時期が長くありました。一番辛かったのは、「失語症を解ってくれる人がいなかった」ことです。失語症は治りません。でも、最大限良くはなって行きます。私は失語症になって25年ですが、いまだに回復している状態だと自覚しています。去年より今の方が良い、そう思っています。」回答をかいつまんで言うとこういうことになる。
 失語症は治りません、と言われてしまうと、身も蓋もない。これが現実かもしれないが、どうしても治りたい、治してやると思う。

2008年11月8日(土)
 以前のように、失神感のあるめまいがしなくなった。10月の初め頃2、3日、会社で体操をしている時にあったフラフラするめまいも消えている。

2008年11月19日(水)
 今日と明日は日本高次脳機能障害学会(旧日本失語症学会)だ。学界の権威と言われる人たちと話したり、後で手紙のやり取りをして得たものを総合して言うと、「脳損傷に伴う失語の回復過程では最初の6ヶ月間が自然治癒期で、眼に見える変化があるが、その後の変化は緩やかになってくる。今はその状態にある。だが、障害された脳部位は決して元通りにはならないが、残存した神経ネットワークが新しい事態に徐々に対応してゆき、高次の脳機能は長期にわたり回復していくといわれている。卒業といわれてしまうのは悲しい。いずれにしても障害の本質自体が根本的に解消することは難しく、その障害を抱えながらも比較的適切な対応やoutputができるという意味で回復はこれからも続く。活発に多くの社会的活動をしていることが高度なリハビリテーションになっていると考えられる。計算能力については言語獲得とは別のメカニズムが考えられているから地道に訓練あるのみ。」まぁこんなところだろう。
 初めからわかっていたことではあるのだが、よし、それじゃぁその神経ネットワークとやらを再生すればいいってことだな、と再認識する。


ハンドバッグを作った

2008年11月26日(水)
 主治医の診察を受ける。熱・過労・寝不足が痙攣発作を起こす3大悪。これがあるときには、お風呂に一人で入らないように。出張先でもシャワーならOK。なぜなら、おぼれて死んでしまうから。
 主治医が段取りをしてくれた精神科の担当医が、ひととおり失語症の初期の頃にしたと同じような検査をして「これじゃあ、引っかかってこないから」と高次脳機能障害専門外来に来るように勧められた。このとき時計を描かされて文字盤の所に分の数字を記入してしまった。後ですぐに訂正したけれど。

2008年11月27日(木)
 言語リハビリ。STに高次脳機能障害学会の件など報告する。
 2、3日前から言葉が出やすくなっている。判断力もましになってきた。でも、書く文章は、たとえそれが短いものであっても、他にもっと良い言い回しができるんじゃないか、もっと適切な表現ができるんじゃないかと悩む。

2008年12月2日(火)
 高次脳機能障害専門外来に行ってみた。前頭葉機能の検査(といってもとても簡単な検査)をして「機能として優れている」だって。うーん、これじゃぁ先が思いやられるなぁ。
 わし本来の能力がどれくらいあって、それがどこまで回復しているのだから、どうすべきかっていう結論に、はたして至ることができるのだろうか。

2008年12月16日(火)
 今日も高次脳機能障害専門外来受診、WAIS-V検査を実施した。
 言語リハビリ。一歩一歩目標を設定して、達成できなかったら厳しすぎ、達成できたらもっと欲張ってよい。とのこと。

 この時期の高次脳機能障害に関することを振り返ってみるとこうなる。
 会議の場等で人の話に応じて短いコメントを付けるといったことができるようになった。しかし、ややこしいことを考えるときとか、重要な話をしようとすると冷汗びっしょりになるし、アドリブでの挨拶などは頭が真っ白になってしまって、どうにもこうにもならない。
 平易な会話をしているときとか、言葉に関して全く障害がないように見えるが、これが困ったものである。実際は難しいことは喋れないし、そもそも文章を書く時にすら、平易な言葉はもとより、ややこしいことなど全く言葉が思いつかない。自分の言葉でしゃべろうとしても、結局、目の前の文字を読んでしまう。
 暗算が苦手なので、結局、流体計算・熱計算ができない。ワーキングメモリ障害があるので、ちょっとしたことでも忘れてしまうから数式が覚えられない。一方で業務で行う検図がやっとできるようになった。今までは寸法のチェックすらままならなかった。
 高次脳機能障害学会に行って得られた成果は、障害された脳部位は決して元通りにはならないが、残存した神経ネットワークが新しい事態に徐々に対応してゆき、高次の脳機能は長期にわたり回復していくといわれている。いずれにしても障害の本質自体が根本的に解消することは難しく、その障害を抱えながらも比較的適切な対応やoutputができるという意味で回復はこれからも続く。初めからわかっていたことではあるのだが、よし、それじゃぁその神経ネットワークとやらを再生すればいいってことだな、と再認識する。いわゆる「脳の可塑性」だ。



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