15.「 X + 6year 」
<14.「 X + 5year 」> 000000 <目次> 000000 <16.「 X + 7year 」>



 手術から6年が経過した。今日の時点での高次脳機能障害、特に失語症の症状を忘れないようにまとめてみる。こうして文にしてみるとちっとも良くなっていないように思えるが、ま海外旅行にも行ってこれたことだし、だんだん良くなってるんじゃないのかな。
1. 頭ではそれが何だか明確にわかっているのに、言いたいけれどもいえない。
最近調子が悪い時にちょくちょく現れるようになった。でも最近調子が悪くないことが多いから、調子が悪くない時と比べて相対的にそう感じるのかもしれない。
2. それをどう表現していいのかわからない。ど忘れのひどいようなもの。その単語をどういう風に言い表したらいいのか思い出せない。
この状況はだんだん減ってきていると感じる。少ない語彙の中だけでまかなっていて不自由していない(ほんとは不自由してるんですけどね)から気にならないのかもしれないんじゃないかなと思う。
3. 説明力がまだまだだと感じる。
記憶しているところまでは話せるのだが、記憶してないところになると、とたんに支離滅裂になってしまうというか、頭ではわかっているんだが説明したくても喋れない。特にちょっと急いで説明をしなければいけなくなった場合とか、気持ちが焦っているときとかには、まだ説明することが難しいし、冷や汗で背中がびっしょりになる。
4. 対等な立場の人に対して、語尾が敬語になってしまうことが少なくなってきたと感じる。
その人の立場に応じた、ゆうてみりゃぁ乱暴な表現もできるようになってきたで。それから気の利いた表現や、ちょっとひねりを効かせた表現が少しだけできるようになってきたと思う。
5. 正確に自分が思っていることが伝えられるようになってきた。
これに関しては、最近は気にならなくなってきている。気にならなくなったということは正確に自分が思っていることが伝えられているのか、どうでもよくなっているのかしらないが・・・
6. 忘れるようなことじゃないのに忘れている。それが何かのきっかけで思い出すことができた時に、初めて忘れていたということに気付く。
これも少なくなったと感じるが、忘れてるんだから気付きようがない。いっぱい知識があるのに、活用できなくて引き出しの奥にしまいこんでいる人がいるが、今がちょうどそんな感じで、何かきっかけがあるとポンって引き出しが飛び出してくるような気がする。術前は引き出しは開きっぱなしだった。
7. あらゆる面で検討して意見を言わなければいけない場面で、ある角度から考えるべき部分がすっかり抜け落ちていたり、人に対しても配慮が足りない発言になってしまう。
交渉事は少しだけできるようになってきたのだが、こんなの交渉とはとても言えないと言われてしまえばおしまいだけどね。
8. 特に経営的な話題、複雑な事務処理になると、頭が真っ白になってついて行けないし、意見を言おうとしても思いつかない。
良く考えてみると、技術的なことと経営的なことと事務的なこと、それぞれどれもほぼ同じ程度に回復しているんじゃないかなと思う。術前は技術的なことが飛びぬけて得意だったから、そこそこ回復している状態でもうまくやっていけているんじゃないかな。
9. 電話を受けることはまだ難しい。
受け答えがたどたどしくなるということに加えて掛かってくる電話だと予期せぬことについて話さなければいけない状況になってしまうから。
10. 単位の換算がまだ難しい。
これは分子と分母の関係が理解できにくいからというのと同じだろう。以前は強い弱い(これは私だけの特別な感覚で、実際は大きい小さいだ)が直感でわかっていた。少なくとも紙に書いてじっくり考えなくても良くなったので、この点は進歩がみられる。
11. 時間と空間に対して予測ができ難くなっている。
わかりやすく言うと、おおざっぱな見積りや計画を立てるということができにくくなっている。でも最近になって、ちょっとだけ見積もりと予測ができるようになってきた。
12. 額と体に冷や汗をびっしょりかくのと涙目になって涙がこぼれるのは、緊張したり一生懸命しゃべろうとしたりするときには、まだある。

体の症状は、
1. 手術で切った傷口か、傷口の横にプチッとできた吹き出物がときどきとても痛むが、頻度が減ってきたと感じる。
2. 痙攣止めの薬が変わったのが関係しているのかどうだかわからないけれど、最近耳鳴りがしたり、ときどき「キーン」ときたり、頭が締め付けられるような、なんともいえない違和感を感じるということが少なくなっている。
3. 目の下のくまは治っていない。
4. 夜遅く出歩いていると翌日に痙攣発作が起きて気を失うんじゃないかと不安になる。
5. 手先の器用さが、まだ完全には戻っていない。



"赤"レンガ倉庫

例によって、この1年間のできごとをふりかえろう。
2012年8月29日(水)
 最近調子が良い。電話も少しだけ躊躇しないでかけられるようになった。会議での発言も、注意しながらではあるがアドリブで割と長い話ができるようになってきた。長い話をしても背中に冷や汗をかくこともない。今日は、手術前と同じ口調で、残業制限ぎりぎりの同僚に「まだやりょうるんか、はよかえれよ」と声をかけることができた。体の方はというと強度は弱いけれども気が遠くなるのとキーンと耳鳴りがしているのは強くなったり弱くなったりしながら常時ある。これは気にしないようにしている。

2012年9月5日(水)
 明るい気持ちでいるから、つっかえても、苦労して話しても気にならない。月曜日に約3ヶ月ごとの朝礼でコメントをする機会があった。下書きは書いておいたのだが、項目ごとの話をポイントを覚えておいて話すことができた。セミアドリブかな。

2012年9月6日(木)
 今日は一転して喋りにくい。ある言葉を言おうとしても思うように出てこない。結局なんだかおかしな表現になってしまう。頭の方も会社にいるあいだじゅう違和感があった。

2012年9月7日(金)
 言語リハビリ。語尾が言えなくなることをST(言語聴覚士)に相談する。最初の話しだしは何かきっかけがあると内容まではすんなり言うことができるが、肝心の語尾を言うことができないから、結局やったんだかやってないんだか、良いといってるんだか悪いといってるんだか、話をしている相手はわからないで困ってしまうことになる。
 約1時間話し終わって席を立ったら、背中が冷や汗でぐっしょり濡れていた。



500,000hitのプレゼントにするショルダーバッグを作った

2012年9月18日(火)
 今日は言葉の出が悪い。その場にいる皆がわかっていることを最初から言ってみても、肝心な意見を言うところに来ると支離滅裂になる。どうしたもんかいな。
 ねむい。睡眠時無呼吸症候群の症状が悪化しているのかもしれない。ねむいけれども頭に感じる違和感はない。これは9月19日にはすっかり治っていた。

2012年9月21日(金)
 良く考えてみると、技術的なことと経営的なことと事務的なこと、それぞれどれもほぼ同じ程度に回復しているんじゃないかなと思う。術前は技術的なことが飛びぬけて得意だったから、そこそこ回復している状態でもうまくやっていけているんじゃないかな。とは難しい技術的な判断を求められる状況に陥ってしまったことにより気付かされた。

2012年9月26日(水)
 一昨日が眠いことのピークだった。ピークを越えると一気に眠くなくなる。
 昨日今日と後頭部が締め付けられる感じがする。この頭が締め付けられる感じがするというのは時々しているのだが、いつになくちょっとひどい。



秋の天狗高原

2012年10月6日(金)
 今日、定期的に検診を受けるために通っている歯医者にほぼ1年ぶりに行った。その時に、「なんか違いますね。1年前に来た時とは違って元気そうに見えます。本人だけがわかっている辛さがあるんですね」とのこと。歯医者さんの知り合いに90歳ぐらいのいつもしゃきっとしているおばあさんがいて、ひさしぶりに会ったので、お元気そうでなによりですねと挨拶したら、「息をしてるのもつらいんぞな」と、そんなことを言うもんじゃないと叱られたそうだ。
 そりゃ自信も少しだけ戻ってきたし1年前と比べると違うのは当たり前だけど、久しぶりに会った人から言われると、お、違いがわかるんだなとなんだか嬉しい。

2012年10月16日(火)
 言葉の出が悪い。説明しようとしても言えない。人に5分ぐらい説明している時にでも、全身が汗でびっしょりになる。

2012年10月17日(水)
 今日は一転して言葉の調子が良い。調子が良い時と良くない時があるのは、良くないと感じるか良いと感じるかの、感じ方の違いかなと思う。長く喋って説明することがあるときには調子が良くないと感じて、相づち程度で済ますことができるときには調子が良いと感じるのかなぁ。

2012年10月30日(火)
 自分から進んで雑談することができた。まだまだ話しにくいのが玉にきずなのだが。



ハンドバッグを作った

2012年11月07日(水)
 主治医の診察を受けた。痙攣止めのアレビアチンを飲んでいるのだが、血液検査の結果はフェニトインとして5.01μg/mlで、これの適正域が5〜10μg/ml(数年前に上限が20μg/mlから10μg/mlに引き下げられたという話を、主治医と若い女の先生との会話で知った)で、下限だからOK。以前の数値とも変わっていない。アレビアチンは発作が最後に起きた時から5年経過したのち、量を減らして脳波を測定してみてから大丈夫であればやめたいとのこと。
 頭が締め付けられる違和感がある、傷口が痛いのは外の神経を切った後の影響。しばらくは続く。一生続くかもしれない。頭の中からくる頭痛でないから再発に関しては問題ない。問題ないと言われても痛いもんは痛いんじゃ。
 得意な技術的なことに関してはなんとかついてゆけるが、経営的なことになると頭が真っ白になって困るのは、前頭葉の集中力に関係しているかもしれないとのこと。ストレスをコントロールしているようなのでそのままで良いらしい。

2012年11月08日(木)
 今日は同僚と少し込み入った話をちょっと長い間した。全身に特に額に汗が出る。

2012年11月09日(金)
 3年半ぶりに会った同僚に、前会った時とは表情も明るいし見違えるようだ、と言われた。

2012年11月19日(月)
 今日は頭の右側の傷の周りの皮膚が夕方からとても痛む。夕食を摂ったら治っていた。

2012年11月23日(金)
 良くいくパン屋でレジを打つ時に待っているあいだに珈琲を入れてくれるのだが、「良かったら珈琲をいれましょうか?」と聞かれたときに「はい、あの・・・あの・・・」といったきり「お願いします」とか「はい、いれてください」という表現が出てこなかった。直前に「いえ、結構です」と言おうとして店員との関係から断るのもなんだなと思ったことも迷いの原因かもしれないが。とっさの表現ができるときもあるし、できにくいこともある。その時は一人で行ったのだが、いつもはかみさんと一緒に行っているので、店員が「ひとつですか、ふたつですか」と助け船を出してくれたので助かった。まだまだだなぁといれてもらった珈琲を飲みながら思った。



頼山陽も愛したという台柿

2012年11月26日(月)
 今日2年ぶりぐらいに出会った会社の人に「お、反応がいいですね」とほめられた。うん、術後の早い時期から反応だけは良いんですけどね。

2012年12月12日(水)
 今日出張で帰りの飛行機の中で高度が表示される機体に当たったのだが、ftとmの換算を勘違いしていた。mに換算するときftを3で割ると思っていたのだがftに0.3をかけるのだった。単位の換算がまだできにくい。

2012年12月13日(木)
 同僚に人事に関する面接をした。一生懸命しゃべっているから涙がこぼれた。涙を流すほど熱く語ってるんじゃないから誤解しないでね。

2012年12月17日(月)
 出勤する車の中から、頭が締め付けられるように痛かった。15時ぐらいまで続いて、頭の皮をマッサージしたからかもしれないが、今まで感じていた普通に違和感があるような状態にまで治った。

2012年12月21日(金)
 このところ会議でパワーポイントを使って説明するときにもアドリブを効かせてすんなり話せるようになってきた。とっさの受け答えには不満が残る。
 言語リハビリ。術後初めて言葉だけで、あるケーキ屋さんの場所を説明することができた。スーパーマーケットの信号を入ってずっと行ったところで、大学のグラウンドと花屋のある信号の西。が、肝心のケーキ屋の正面にうどん屋があることと、並びにお惣菜屋があることの説明をするのを忘れていた。

2012年12月26日(木)
 有効桁数1に直して暗算し、大まかな結果を計算できた。言葉で表すのはちょっと難しいけれども、術前は頻繁にしていたのだが、まず指数に変換して(A×10の何乗)×(B×10の何乗)÷((C×10の何乗)×(D×10の何乗)) で(A×B)/(C×D)の計算をおおざっぱにしてから、何乗という部分を引いたり足したりして、あとで普通の数字に戻すだけのものだ。



ショルダーバッグを作った

2013年1月7日(月)
 正月休み明けに出社した。長い電話がかかって来て、その内容を同僚に説明するのに苦労した。頭では明確な考えがあるのに、言葉にするとだめ。文章にまとめると、頭に明確にあるし時間をかけて考え考え書くのでだいじょうぶ。考えてみれば、うちでも同じだから取り立てて会社ではということもない。まだまだだなぁ。

2013年1月10日(木)
 最近調子が悪いと思う。何のことはない普通の会話でも明らかに説明がしにくい。ちょっと複雑になったり、焦って早く言わなければならない時にはとても話しにくい。職場のみんなは、まだ回復してない私に対して期待しすぎ。そりゃ手術前は自分でいうのもなんだが期待されるだけのことはあったと思う。今の状況は詳しい説明をしようとしても何度も同じことを繰り返し喋ってしまったり、そもそも考えをまとめることすらできにくい。でも、なんとかなるさと気楽に考えている自分がいる。

2013年1月16日(水)
 調子が悪い時に限って「もう普通に仕事やれるよね」と隣の部まで面倒を見てほしいと言われる。いえいえそんなことはありませぬ。これがもうめいっぱいです。回復したとは言ってもまだまだ決断力にかけるし、経営的なことや込み入った事務的なこと、それより肝心な技術的なことでさえややこしくなると困ってしまう。なにしろ計算式が立てにくい。こんなことは手術前は平気でやってのけていたのだが。ま、愚痴を言ってもしょうがないか。

2013年1月20日(日)
 法事があった時に、従兄との会話でCR-Zの後席は・・・というところで詰まってしまって、後の「申し訳程度」という言葉が出てこない。従兄が「子供用」という助け船を出してくれてその場はなにごともなく次の話題に移って行った。



夕陽

2013年1月24日(木)
 ここ2、3日は言葉を選んでゆっくり喋っているからほとんど問題がない。でも、ほとんど問題がないとはいっても、本人は納得していない。なんか他の表現があるはずなのに言葉として出てこない。で、表現として物足りないものになってしまうとわかっていながら喋っている。なんどでも今言ったことを繰り返し言ってしまう。しかしちょっとしたはずみで早口ですんなり表現できることもある。
 一瞬耳が聞こえなくなり「キーン」とするのは、このところしょっちゅうなのだが、もう慣れてしまった。

2013年2月6日(水)
 今日は調子が良い。単語が思い出せないところもあるが、比較的言いたいことをなんとか言える。だんだん自信を持って話せるようになってきたし。
 同僚と帰り際に雑談をしていて、自分の言いたいことを言ってから安心してしまうので、同僚が言っていることがどうでもよくなっていることに気が付いた。術後は人が話をしかけているときに、自分が話せないものだから、なんとか早く切り上げてしまうことを考えていたのが習慣になっているのかも知れない。もうやめよう。

2013年2月8日(金)
 頭に違和感を感じる。キーンと耳が聞こえなくなるような感じが1分弱続く。それといままで経験した様々な違和感が少しだけ感じられる。

2013年2月13日(水)
 主治医の診察を受ける。MRI検査の結果は再発なし。去年おとどしと比較して変わっていないとのこと。
 次回の診察までの間に脳波を測定して、血液検査を行い、その結果を基に痙攣止めのアレビアチンを他の新しい薬に変えるかどうか判断する。前科(痙攣発作)があるので引き続き痙攣止めの薬の投薬は行うとのこと。・・・なんぼほど慎重なんじゃ ^^;
 アレビアチンは効果もわかって歴史もある反面、肝機能障害をときどき起こすという副作用があるが、この新しい薬は痙攣の抑止効果が優れていて、肝機能障害も起こしにくいため、長く飲むならこちらを勧めたいと。



灯台

2013年2月22日(金)
 今日会議の前に雑談をしているときに、はじめてその場にふさわしいウィットに富んだ表現ができて、その場にいた皆を笑わせることができたと感じた。今までにも術後にこういうことがあったんじゃないかとも思うが、明らかに今日のは手ごたえがあった。今までは普通に雑談をしていて、相手が都合の悪いこと答えに窮するようなことを言ったときに、知らんぷりをするような「間」をもって対応する(そんなにポンポン言われても急には喋れないのを利用して、結局黙ってしまうだけなんだけど)ことで笑いを取っていた。それが今回はちょっと考えはしたが自分から喋れた。

2013年2月26日(火)
 今日は調子が悪い。なにが調子が悪いのかというと、明るい気分で話し始めるのだが、途中でうまく表現できなくなる。というか、話が終われなくなる。詰まりそうになったりしてしまう。そのくり返しだ。

2013年3月1日(金)
 電話で他部署の人と「交渉」をした。言い負かされてしまった。なさけない。電話だったことと、人の話を早く切り上げさせたいという思いが強くてよく聞かなかったこと、それから自分の意見をストレートに何度も繰り返したのが敗因。まだまだですね〜 ^^;

2013年3月8日(金)
 言語リハビリ。勢いよく話し始めるのだが、途中で語彙自体と「てにをは」の助詞の部分でつまずいて、ちょっとの間をおいて考えてから話すのでいきなりたどたどしくなるということを相談してみる。この時の頭の中の状態は、フル回転して適切な表現を探している。ST(言語聴覚士)は最近私のしゃべり方が早くなっているので、そのスピードに考えがついていけてないんじゃないかとのこと。私の症状が訓練として本を音読するとかいうレベルは超えてしまっているので、何らかの方法で会話を録音してみて、それを後で、つまずいたときに何秒かかったとか解析してみるとよい。本人がつまずいたと思っても、時間的には大して気にならない程度かもしれない。回復度合いの参考にもなるので。それから、ものごとを同時並行して処理する訓練をするとよい。電話は失語症患者の9割の人が、面と向かって話すよりも苦労するとのこと。
 一方かみさんは、無くなってしまったものを取り戻すよりも、どんどん通常の話し言葉を頭に入れて行った方がよいとの考えで、もっと音読してほしいとのこと。それも一理あるなぁ。

2013年3月20日(水)
 前から苦手だったのが、人をほめること。術前は、なんとか頑張ってやってきたつもり。術後は未だに下手なのはしょうがないとして、ほめ言葉を言おうとしても、どう表現したらいいのかわからないが、ロックがかかるというか制限が入るというか、そんな感じがして喋りにくい。



ボストンバッグを作った

2013年3月23日(土)
 学生の時は2年間ほどグライダーに乗っていた。その時の航空部の先輩で以前の会社の先輩でもある人と18年ぶりに会った。メールのやりとりはしていたのだが、実際に会ってみると奥様も含めて全く変わらない。子供だけが大きくなっている。私はというと口数が減っている。ま当然っちゃ当然なんですけどね。込み入った説明をしなければいけない場面でも詰まってしまう。あれもこれも言いたいのだが説明不足になってしまう。

2013年3月25日(月)
 調子が抜群に良い。肝心の主体とする言葉は適切な言葉を探そうとしてまだ迷うのだが、比喩を効かせた冗談とか、人の話をうまく伝えるとか、「説明」することができたと思う。

2013年4月12日(金)
 今日は調子が良く、装置の説明も去年NHKが取材に来た時に比べるまでもなくアドリブで良くできたと思う。 でもまだ本人は思っていることの十分の一以下しか話せず、納得していない表現になる。頭の中に言いたいことがいっぱいあるのに、それが出てこない。全身に冷や汗をかく。

2013年4月16日(火)
 昨日今日と忙しくていろんなことを一度に処理しなければいけなかったからかも知れないが、頭にどう表現したらいいのかわからないが後頭部から頭全体にかけてえもいわれぬ違和感がある。視野が狭くなっているように思えた。
 以前、知識の引き出しの話を2009年11月28日に書いたが、この時は「どうも記憶の引き出しが開きにくいのは、インデックスとなる言葉が思い出せないからじゃないかと思う。発語できないんじゃなくて「思い出せない」んだ。それでも記憶の引き出しを無理やり開くということはできないので、インデックスとなる言葉を思い出すたびに、引き出しを開いてきた」とある。これは確かに正しい。今じゃかすかに思い出した言葉をたどって引き出しを開くというほうがあっている感じがする。いっぱい知識があるのに、活用できなくて引き出しの奥にしまいこんでいる人がいるが、今がちょうどそんな感じで、何かきっかけがあるとポンって引き出しが飛び出してくるような気がする。術前は引き出しは開きっぱなしだった。



小銭入れを作った

2013年4月22日(月)
 自分が自分であって自分でないような変な気持が会社に行っている間じゅうしていた。この気持ちを説明しろと言われたって、なんかへんとしか言いようがない。言葉もたどたどしく言いたいことが言えない。資料を作っていても、自分で書いておいて読み返しても頭に入ってこない。

2013年4月24日(水)
 今日は脳波測定の日。検査中に入眠しなければいけないと聞いていたから前日夜更かしをして病院に出かけて行った。
 頭にいっぱい電極をつけて脳波を測定するのだが、接着剤をつけるところをアルコールで脱脂をする。そのときに指で強烈にゴリゴリこすられて、禿げるんじゃないかと要らぬ心配をする。最後に電極を付けるときにも硬いものがあたる感じでこすられて、またまた禿げるんじゃないかと思った。こんなにたくさんの電極を付けるんだったら、最初に脱脂のためにいっそのこと私の髪が短いんだからアルコールで洗髪すればいいのに、とずっとゴリゴリこすられている間じゅう考えていた。それから目をあけたり閉じたり、息を吸って吐いてを短時間で繰り返すことを3分間くらい続ける、目の前でランプを点滅の間隔を変えながら光らせたり、眠ったりする検査をした。
 寝不足だからなのか、光の点滅で痙攣発作を誘発しようとしたからなのか、帰りの車の中と帰ってからもちょっとふらふらする。

2013年4月29日(月)
 人と話しているとき、とにかく素早く反応して言葉にするのは、すでにある程度は実現している。そうじゃなくて頭の中で葛藤しないで自然に喋れることが目標なんだ。人から話しかけられたときに、さんざん考えて、よしこの言葉なら言えるぞとなって言っては見るものの喋れないので、瞬時に第二候補に言い換える。この話しかけられてからの間が、瞬時から1秒程度。だから話しかけられたときに受け答えする時間を測ってというのは、もうすでに結構早い。でも頭の中で考えなくても自然にしゃべれること、第二候補に言い換えることにより正確でない表現や自分では納得できない表現になるのでこれを解消すること、がんばって考えても以前のようには理解することができないことを理解できるようになることが当面の目標だ。



幸福のくまさん

2013年5月3日(金)
 以前勤めていた会社の同期の奴と、その会社を辞めてから26年ぶりに会った。この闘病記の2011年1月6日に登場する奴である。久しぶりに会ったことがうそのように、26年の時が一瞬だったかのように、何のことはなく普通に会話できた。でも以前のようには喋れないんだけどね。

2013年5月10日(金)
 フランスにいる長女に送るために私がちょっとした説明図を描いていたのを見て、かみさんが私の私らしい懐かしい画だとしみじみ言った。以前は丸っこい文字だったのが、術後は角角の金釘文字になり、それが崩れてちょっとひどいことになり、最近は以前のような文字になっているし、術後はどうにも図も描けなくて困っていたのだが、最近少しだけ元のように描けるようになってきた。うれしい。
 頭の中の違和感はずっと続いている。

2013年5月15日(水)
 主治医の診察日。脳波の測定結果は異状なし。痙攣につながる恐れがあることを予想されるような波形は出ていなかった。血液検査の結果は肝臓の数値もGOTが18U/L、GPTが23U/L、γ-GTが61U/Lで数値に異状なし。痙攣止めの薬をアレビアチンからイーケプラ錠に変えることになった。アレビアチンは急にやめると重い痙攣発作を起こす恐れがあるので、今日以降は1日1錠に減らして1ヶ月経ったら0.5錠に減らす。その後2週間たったら飲むのをやめる。新しい痙攣止めの薬イーケプラ錠は今日から朝夕1錠ずつ服用する。イーケプラ錠の副作用として比較的多いのは眠気、頭痛、めまい、下痢、便秘、鼻咽頭炎などで重い副作用はまずないとのこと。服用後ちょっと経ってから頭がふらふらして、なんだかふわふわする感じがした。
 それより血液検査で中性脂肪が311mg/dLと前回検査した時と比べて100mg/dL以上高い。ここ数年230mg/dL前後を推移していたのだが、基準値が50〜149mg/dLであることを考えても高いことにかわりはない。そこで中性脂肪を下げるためのエパデールS600という小さなカプセルがたくさん入っている薬を処方された。朝昼夕3袋飲む。
 いっぺんに薬代が高くなったのでなぜかなと思い薬価を調べてみたところ、アレビアチンは12.1円/錠に対してイーケプラ錠は230.8円/錠。う〜ん、アレビアチンはもう特許が切れて久しい、かたやイーケプラ錠は最新の薬なので特許が有効だ。でもそこまでの値段差がある効果があって副作用が少ないのだろうか。まぁ副作用は少ないということだけどね。

2013年5月16日(木)
 薬を二種類飲んでいるせいだろうか。服用するとその後でふらふらふわふわする。ふらふらふわふわするのは昨日よりも弱い。



あの色が変わっているところまで潮が満ちてくるんだな

2013年5月17日(金)
 ふらふらふわふわするのはだいぶ治まったが、こんどは眠くて眠くてたまらない。イーケプラ錠とアレビアチンを併用しているので眠いのかな。

2013年5月21日(火)
 きのうは眠くはなかったが、夕方もう限界って感じで思考停止してしまった。今日は薬の副作用もおさまったのか普段通りの調子の悪さに戻っている。

2013年5月23日(木)
 今日は言葉の面で非常に調子が悪かった。会議の場で明確に頭の中にある言葉が出てこないで詰まってしまうことがあった。これまではそれでも何とか自分では納得していない表現でも喋れてはいたが、それができずに黙り込んでしまった。

2013年5月29日(水)
 昨日と今日は毎年受けている人間ドック。もし6年前の脳ドックで脳腫瘍が発見されなければ今頃はどうなっていたことかと思う。脳ドックを勧めてくれた、かみさんに感謝。
 昨日は言語リハビリにも行ってきた。あることを説明するとき、一旦話した内容に囚われてしまって、別の表現とか他の方向からそのことを説明することができない。何度も繰り返し同じことを喋ってしまい、全身汗びっしょりになる。しかしSTと話しているときに、STが「奥さんがあなたの」と言ってから詰まったので「手綱を握って」と私が気が効いた表現で助け船を出すことができた。この気が効いた表現ができるのは、今まで話していた表現を一歩一歩取り戻していっているということだろう。

2013年5月30日(木)
 最近、ちょっと油断すると気を失ってしまいそうに思える感じが時々するのと、手が周期的に震えそうになる。実際にはそんなことにはならないのだが。痙攣止めの薬を2種類飲んでいるからなのだろうか。

2013年6月17日(月)
 少しだけアドリブを効かせて説明ができるようになった。でも言いたいことの十分の一ほどしか言えないことに変わりはない。話が長くなってくると、だんだん小声になってしまいには黙り込んでしまう。



花菖蒲は雨の日が似合う

2013年6月20日(木)
 月曜日とは異なり、なんだかこのところずっと言葉の面で進歩が見られないと感じる。例えば実験場で重量物を運んでいるときに、リフトの操作をする人に「オーライ、オーライ」とはなんとか言えるのだけれども、限界まで寄った時に止める言葉が見つからなく、結局言えなくてぶつかってしまったり、話したい内容が言えなくて無理をして絞り出して自分じゃ納得してない表現にしかならなかったりする。
 なんとか以前のように言いたいことが滑らかに言えるようになるんだろうかと心配になる。まぁなんとかなるでしょ。

2013年6月28日(金)
 今日で痙攣止めのアレビアチンは終わり。イーケプラ錠だけとなる。

2013年7月7日(日)
 最近例のナンバープレートの数字を足していくことが瞬時にできるようになってきた。口に出してそれを言うこともすんなりとできる。

2013年7月14日(日)
 言葉が出なくてイライラする。そんな時はゆっくり話してみるが言いたいことのほとんどが言えない。ゆっくりしゃべっているので、会話が相手に取られてしまう。

2013年7月15日(月)
 手術の傷跡の右側が、朝からズキンズキンととても痛む。頭半分の広い範囲が痛い気がするが、さわってみると狭い1点だけが原因で広い範囲が痛いように思える。
 晩飯前に気がつくと治っていた。

2013年7月22日(月)
 今日は最近になく強烈に言葉の調子が良くない。まず単純なことは頭で理解してもそれが言葉にできにくい。時間をかけても納得できない表現になる。7月7日にナンバープレートの計算が瞬時にできるようになったと書いたが、それはできる。

2013年7月31日(水)
 主治医の診察を受ける。診察前に血液検査をした。このときいつもは血管から血が漏れて内出血の痕がこぎたなく残るのだが、今日の検査技師のお姉さんは違った。まったく内出血させずに血を抜いてくれた。ぱちぱちぱち ^^
 主治医に、イーケプラ錠とアレビアチンを併用しはじめのとき2〜3日は眠かったが、イーケプラ錠だけになってから、耳鳴りがしたり、ときどき「キーン」ときたり、頭が締め付けられるような、なんともいえない違和感を感じるということが減っていることを私から報告した。
 主治医からイーケプラ錠は血中濃度の指標はなく、症状を見ながら量を増減する。盆休みに私がフランスに旅行するので、時差ボケで睡眠状態に変化があるかもしれないため(要するに睡眠不足でストレスになり、痙攣発作を起こすんじゃないかと心配してくれている)、今まで朝夕1錠ずつイーケプラ錠500mgを飲んでいたのを、1日に朝昼夕と3回飲むようにしておきたいと告げられた。症状と服薬の状況を旅行に持参するために英語で記述してあとで郵送してくれるとのこと。



Medical Certificate

2013年8月18日(日)
 昨年の9月から長女がパリに住んでいるので、かみさんといっしょに昨日まで、一年ぶりに顔を見に出かけてきた。パリの主な観光スポットを堪能して、その後にパリから500kmぐらい離れている避暑地のアヌシーという街(パリよりアヌシーの方が暑い。避暑地というよりバカンスを過ごすところといった方がいいかもしれない)に行った。アヌシーから北へ約20km程行くと、もうスイスのジュネーブである。
 術前は私用社用で海外にちょくちょく出かけていた。術後の2010年1月10日に、その年の夏休みはヨーロッパに旅行しようと決意してみたものの、英語が頭にまったく入らなかったので断念した。未だに私は英語は頭に入らないけれども、長女はフランス語は英語以上にしゃべれる。日常会話ならバッチリまかせとけ状態。我娘ながら頼りになる奴じゃ。私はフランス語は、行っているあいだボンジューとメルシーとオルボアしか話さなかった。それしか知らない。あシルブプレも知ってはいるが、使うシチュエーションにはならなかった。
 失語症になると、外国語を話したくても話せない状態に似ていると、たまに言われるが、それは半分当たりで半分間違っている。外国語で聞いてそのまま外国語で理解しているのと違い、外国語がしゃべりたくてもしゃべれない状態というのは少なくとも頭の中に言いたいことがしっかり母国語であるわけだけれども、失語症は頭の中でイメージはできても母国語ですら思い浮かばないこともあるし、母国語で考えることができてもしゃべれない、さらにイメージすらできない場合もある。
 とにもかくにも長女のおかげでフランス旅行ができた。夢のような時間だった。



パリに行ってきました



アヌシーにも行ってきました

2013年8月23日(金)
 3ヶ月毎に行っている言語リハビリがあった。フランス旅行のことなどしゃべる。
 今日で手術から丸6年が経過した。最近言葉の面で調子が良い。調子が良いと思っているときは、しゃべりがたどたどしくなっても、面白い表現とかちょっとひねった表現ができる。でも相変わらず言いたいことがすんなりと言えない。まぁ回復途中だからしょうがないのかな。



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